骨粗鬆症の薬物治療
骨粗鬆症の治療薬はその主な作用から大きく4つに分類出来ます。
体内に足らないものを補充する薬 | カルシウム製剤 ビタミンD製剤 ビタミンK製剤 |
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骨吸収を抑制する薬 | ビスホスホネート製剤 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM) 抗RANKL抗体 |
骨の形成を促進する薬 | 副甲状腺ホルモン(PTH) |
骨粗鬆症による痛みを取り除く薬 | カルシトニン製剤 |
骨吸収を抑制し骨形成を促進する薬 | 抗スクレロスチン抗体 |
骨粗鬆症の治療
骨代謝は骨を形成する骨芽細胞と骨を吸収する破骨細胞が担っています。原発性骨粗鬆症は破骨細胞の働きに対して骨芽細胞の働きが劣っている状態です。すなわち、吸収される量に形成する量が追いつかず、結果、骨が減ってしまいます。
骨粗鬆症治療薬は骨の代謝に必要な成分を補充する薬、骨芽細胞の働きを活発にする骨形成促進薬、破骨細胞の働きを抑える骨吸収抑制薬に分類できます。患者さんそれぞれにあった薬剤の選択が必要です。また、薬剤を使う順番や患者さんによっては使ってはいけない薬剤などもあり注意が必要です。
治療には合併症もありますが、骨粗鬆症治療を行うことによって骨折が減らせるという利点から考えると合併症という欠点は微々たるものと考えられます。勿論、合併症が生じない努力、合併症が生じた時の対応も行われています。
カルシウム製剤
カルシウム(Ca)は骨を作る材料となり、その不足は骨粗鬆症を悪化させます。骨粗鬆症の治療のためには1日700〜800 mg のCa摂取が勧められます。しかし、摂取し過ぎも問題があり、現時点ではサプリメントやCa薬として1 回に500 mg 以上摂取しないように注意する必要があります。
Ca摂取量を増やすことは骨粗鬆症の予防・治療に有効ですが、腸管からのCaの吸収量は、ある摂取量以上では頭打ちになります。また、ビタミンD(Vit.D)が不足しているとCaは腸管(体内)に吸収されません。副作用として、胃腸障害や便秘があります。また、摂取し過ぎると尿路結石や気分不良(悪心・嘔吐・意識障害)などの原因となりますので注意が必要です。CaやVit.Dを摂取している場合は医療機関で定期的に採血・採尿検査を行いましょう。
ビタミンD製剤
ビタミンD (Vit.D)は体内にカルシウム(Ca)を吸収するために必要です。いくらCaを口から摂取してもVit.Dが不十分だと体内にCaは吸収されません。Vit.Dは食物として摂取されるとともに皮膚で合成されます。Vit.Dは肝臓でまず代謝され、その後、腎臓で活性型Vit.Dへと変換されます。
皮膚での合成には日光に当たる必要性があります。すなわち、日光に当たらない生活をしていたり、肝臓や腎臓の機能が悪いとVit.Dが本来の働きをする活性型Vit.Dになりません。副作用としてCaを吸収し過ぎて、高Ca血症(悪心・嘔吐・意識障害など)が起こる事があります。CaやVit.Dを摂取している場合は医療機関で定期的に採血・採尿検査を行いましょう。
ビタミンK製剤
ビタミンK(Vit.K)は骨芽細胞に作用することで骨形成を促進し、同時に骨吸収を抑制することで、骨代謝のバランスを整えます。Vit.K摂取不足の高齢者では大腿骨近位部骨折の発生率が高いことが知られています。ワルファリン(ワーファリン®等)を内服している方はVit.Kを内服することが出来ません。
ビスホスホネート
ビスホスホネート(BIS)は体の中に吸収されると骨に特異的にくっつきます。骨に結合したBISは、破骨細胞に取り込まれ、その結果、破骨細胞がアポトーシス(細胞死)に至り、骨を吸収出来なくなり骨量の減少が抑えられます。
服薬における注意事項としてBIS薬は消化管からの吸収率が低いため、水以外の飲食物は服用後30分以上経ってから摂取しなければなりません。服用の際、水道水は問題ありませんが、カルシウムの多いミネラルウォーターで服用するとBISの吸収が阻害されるため、避ける必要があります。
このお薬は、食道狭窄やアカラシア(食道弛緩不能症)の方、服用時に立位または座位を30分以上保てない方、BIS薬に対する過敏症の既往がある方は使用出来ません。脊椎に多数の骨折がある骨粗鬆症患者さんでは、30分間の立位・座位保持が困難なことがあり注意が必要です。嚥下障害、嚥下困難、食道炎、胃炎、十二指腸炎または潰瘍などの上部消化管障害を治療中の方も注意が必要です。内服が困難な患者さんには注射剤をお勧めします。
副作用として胃腸障害、急性期反応・インフルエンザ様症状がみられることがあります。症状としては、筋・関節痛や発熱などが服用開始後の短期間に生じます。内服を繰り返していると徐々に軽減してくることが大半です。その他に、稀な副作用として顎骨壊死や非定型大腿骨骨折があります。顎骨壊死は、長期服用の患者さんで歯の衛生状態が悪い方が、抜歯などを受けた場合などに稀にみられます。このため、定期的にデンタルケアを受けておくことが顎骨壊死の予防につながります。非定型大腿骨骨折も長期服用の患者さんに稀にみられます。長期にBISを内服していて、大腿部痛がある方は主治医に相談してください。
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator: SERM)
閉経すると女性ホルモンであるエストロゲンが低下します。女性ホルモンを投与すれば良いのですが、そうすると乳癌や子宮癌の危険性が高くなることがあります。そこで骨に対してのみエストロゲンと同じような働きをする薬が開発されました。この薬は骨吸収を防ぎ、骨密度を上げ、骨折を減らす効果が認められています。副作用として静脈血栓症の危険性が高くなることが知られています。元々、深部静脈血栓症で治療を受けている方や肺塞栓症の既往がある方は注意が必要です。
抗RANKL抗体
抗RANKL抗体はビスホスホネート(BIS)と同様、骨吸収を抑制する薬剤です。前述しましたが、BISは体の中に吸収されると骨に特異的にくっつきます。骨に結合したBISは、破骨細胞に取り込まれ、その結果、破骨細胞がアポトーシス(細胞死)に至り、骨を吸収出来なくなり骨量の減少が抑えられます。抗RANKL抗体は破骨細胞をアポトーシスに誘導するのではなく、この破骨細胞の活性化を阻害する薬です。
BISなどの他の骨吸収抑制剤と比べたメリットは、より大きな骨密度上昇効果が得られやすいこと、テリパラチド使用後に使用しても骨密度上昇効果が他の薬剤に比べて大きいことです。また、BISと異なり、腎機能障害がある患者さんでも使用が可能です。一方、BISのように中止後にも効果がしばらく続くといった特徴はありません。更に抗RANKL抗体による治療中止してしまうと、骨密度が急に減少することがあるので注意が必要です。
副作用はBISと同じですが、薬効が強い分、血液中のカルシウム濃度が下がりすぎてしまう可能性があります。対応として、ビタミンD製剤やカルシウム製剤を服用する必要があります。
副甲状腺ホルモン(テリパラチド)
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone: PTH)は文字通り人体の副甲状腺から分泌されているホルモンです。PTHが出すぎると続発性骨粗鬆症となります。しかし、持続的な投与ではなく、間欠的(非連続的)に投与を行うと、骨密度が増加することが近年わかり、骨粗鬆症治療薬として認可されました。しかし、人体への投与方法が皮下注射しかなく、連日もしくは1週間に1回の注射が必要になります。他の骨粗鬆治療薬に比べて費用が割高ではありますが、大きな効果が期待できます。ただし、投与期間が2年以内に限られ、この期間の投与を終了すると、将来も使用できません。
原発性や転移性の悪性骨腫瘍、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、骨パジェット病、原因不明のアルカリホスファターゼ高値、過去に骨への影響が考えられる放射線治療を受けた患者さんなどは使用することが出来ません。
副作用としてめまいや下肢のけいれんがあります。また投与後の悪心もありますが、多くの場合は継続していると徐々に軽減してきます。
カルシトニン
カルシトニンは破骨細胞や前破骨細胞に直接作用してその機能を抑制する骨吸収抑制薬です。しかし、骨密度はビスホスホネート等の他の骨吸収抑制薬ほど増加しません。主な効果は中枢のセロトニン神経系を介した鎮痛作用であり、明確な鎮痛効果が多くの方に認められます。このことから早期の疼痛緩和、QOLの改善を期待し、骨粗鬆症性骨折発生直後や椎体骨折に伴う姿勢変形などが生じた患者さんに対し、用いられることが多いです。
投与方法は筋肉注射で1週間に1回投与します。
副作用として、顔面潮紅、注射部疼痛、悪心、熱感等があります。また喘息の既往がある方では発作が誘発される可能性があります。
抗スクレロスチン抗体
抗スクレロスチン抗体はスクレロスチンという物質のはたらきを抑えることで、骨密度を増やし、骨折を起こしにくくする薬剤です。スクレロスチンは骨形成抑制作用と、骨吸収促進作用があります。このスクレロスチンの作用を抑制する抗スクレロスチン抗体は、骨形成促進、骨吸収抑制という2つの作用を併せもちます。
副甲状腺ホルモン同様、抗スクレロスチン抗体にも12ヵ月(1年間)というに投与期間があります。
注意点として高齢者(80歳以上)が使用すると脳卒中や心筋梗塞の発生リスクが上がる可能性があるので、これらの治療歴のある患者さんは使用に際して主治医と相談してください。
骨粗鬆症治療薬の推奨グレード
骨粗鬆症の治療薬の有効性を評価した表です。
骨密度:腰椎の骨密度の上昇効果について
A:上昇効果あり B:上昇するとの報告あり C:上昇すると報告なし
骨折発生抑制効果:椎体骨折と大腿骨近位部骨折について
A:抑制する B:抑制するとの報告あり C:抑制すると報告なし
※椎体骨折は背骨の骨折、大腿骨近位部骨折は股関節周囲の骨折です。
分類 | 薬物名 | 骨密度 | 椎体骨折 | 大腿骨近位部骨折 |
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カルシウム薬 | L-アスパラギン酸カルシウム | B | B | C |
リン酸水素カルシウム | ||||
活性型ビタミンD3薬 | アルファカルシドール | B | B | C |
カルシトリオール | B | B | C | |
エルデカルシトール | A | A | C | |
ビタミンK2薬 | メナテトレノン | B | B | C |
ビスホスホネート薬 | エチドロン酸 | A | B | C |
アレンドロン酸 | A | A | A | |
リセドロン酸 | A | A | A | |
ミノドロン酸 | A | A | C | |
イバンドロン酸 | A | A | C | |
SERM | ラロキシフェン | A | A | C |
バゼドキシフェン | A | A | C | |
カルシトニン薬 | エルカトニン | B | B | C |
サケカルシトニン | B | B | C | |
副甲状腺ホルモン薬 | テリパラチド | A | A | C |
抗RANKL抗体薬 | デノスマブ | A | A | A |
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版