顎骨壊死(がっこつえし)について

骨粗鬆症治療薬であるデノスマブやビスホスホネート(BIS)を使用している場合、あごの骨(顎骨)に骨髄炎が起こる可能性があります。日本ではこの薬剤によって起こるあごの骨の骨髄炎を骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJanti-resorptive agents-related osteonecrosis of the jaw)と呼んでいます。

1. なぜ、顎骨にのみ起こるのでしょう?

ARONJ が顎骨にのみ発生する理由として、顎骨には体内の他の骨には見られない以下の特徴があります。1)顎骨には歯があるため口の内の感染源(ばい菌)が顎骨に直接到達する。2)顎骨を覆う口の中の粘膜は薄いため食事などの日常活動によりキズを受けやすく、感染源(ばい菌)が顎骨に簡単に届いてしまう。3)口の内には800 種類以上、1011~ 1012個/cm3の常在細菌がいる。4)う蝕(虫歯)、歯髄炎、根尖病巣、歯周病が顎骨に炎症を与えやすい。5)抜歯などにより顎骨が直接口の内のばい菌にさらされて感染を受けやすい。

このように顎骨は身体の他の部位の骨と比べるときわめて感染しやすい環境にあり、その環境が ARONJ 発生に深く関与していると考えられています。

2. ARONJ の診断

以下の3項目を満たした場合にARONJと診断します。

  1. BIS またはデノスマブによる治療歴がある。
  2. 顎骨への放射線照射歴がない。顎骨へのがん転移がない。
  3. 歯科医が指摘してから 8 週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める、または口腔内、あるいは口腔外の瘻孔から触知出来る骨を 8 週間以上認める。

3. ARONJ の発生頻度(どれくらいの頻度で起こるのでしょう?)

1)骨粗鬆症患者

①BIS治療患者

内服投与では患者 10 万人年当たり発生率は 1.04〜69 人、静注投与では患者 10 万人年当たり発生率は 0〜90人と報告されています。また、経口、静注を問わず窒素含有 BIS(最近のBIS) 治療を受けている骨粗鬆症患者における発生率は 0.001〜0.01%であり、一般人口集団に見られる発生頻度(薬を内服していなくても起こる顎骨壊死) 0.001%とほぼ同様か、ごくわずかに高いと推定されています。

② デノスマブ治療患者

患者 10 万人年当たり発生率は 030.2人(00.03%)とされている。

2) わが国における ARONJ 発生(日本ではどのくらい?)

日本口腔外科学会が実施した BRONJ ※発生に関する2006〜2008年の全国調査では 263 例、2011〜2013年の調査では 4,797例の ARONJ が報告されています。つまり、年間の骨吸収抑制薬処方患者数(156万人)の約0.1%の発生率となります。
※ARONJ、BRONJ、MRONJはほぼ同様の疾患を示す言葉です。

4. 医科歯科連携・医歯薬連携

どのような薬剤にも主作用と副作用があります。骨粗鬆症治療薬の主作用は骨折の予防で、副作用の1つがARONJです。骨折予防の恩恵の大きさから考えるとARONJは副作用の1つですが発症後は自発痛、食事摂取困難、腐敗臭などに苦しむことがあります。

骨粗鬆症治療中の患者さんはもちろんのこと、そうでない方も、かかりつけ歯科医をもって、3カ月毎を目安に定期的と口腔ケア(歯磨き指導や歯石除去など)を行うことをお勧めします。総入れ歯の方も粘膜が傷つくと顎骨壊死になる可能性がありますので注意が必要です。

BISやデノスマブを使用している方は歯科受診時には必ず、歯科医にこれらの薬剤を使用中であることを申し出て下さい。

もしもARONJが発症した時は、医科歯科の連携を図りながら、保存的治療(消毒・抗菌薬投与など)、手術(腐骨除去、顎切除、抜糸など)を行います。

参考文献

  1. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016
    http://www.perio.jp/file/news/info_160926.pdf
  2. 口腔外科ハンドマニュアル’17(日本口腔外科学会編)「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の歯科における考え方と対応」